DGX Spark 統合メモリ運用
教科書 第2巻(実践編)
128GB統合メモリのGPUノード2台で、vLLM推論サーバとベクトルDBを共存させようとして3日間に起きたこと ── ホスト沈黙の淵からの回収を、原理へ降りる「問い」の格子として保存する。
数値バッジの読み方:実測 = 自環境で測った値 公開 = 外部ベンチ・公式ドキュメント由来の値。バッジのない数値は存在しない(不明な値は「未測定」と書く)。
■ 全体を貫く糸 ── 本書のすべてはこの一文の展開である 実測は一度では足りない。観測は結論に投資した瞬間から腐り始めるので、腐敗を止める装置 ── 独立レビュー(他者)・測定標準(手順)・事前登録(時間)── を仕組みとして持て。遷移コストと標準化の境界は消せない。消せないものは、誰の時間で払うか・どこに置くかを設計せよ。
1. 時系列 × 議論 × 露出した原理
3日間に起きたことの全体地図。行をクリックすると対応する系統・層の解説へ跳ぶ。
| 時点 | 出来事 | 対応する議論 | 露出した原理 |
|---|---|---|---|
| 7/25朝 | 「使用率1.8%実測→50倍過剰」と誤断、独立レビューが指摘 | 系統3 | 平均と最悪ケースの混同/独立レビュー |
| 7/25昼 | KV/token実計算 160KiB実測 → プール23.2GiB実測、結論反転 | 層3・系統3 | 第一原理計算は推測に勝つ |
| 7/25夜 | SurrealDB 87GB実測暴走、ホスト停止15分前で回避 | 系統1・2 | ジョブでなくテナントの失敗 |
| 7/25夜 | max-model-len 32768化 → 受入9.78→12.31本実測 | 系統4 | 予約の「単位」を変える無停止改善 |
| 7/26朝 | 72B起動不能(非KV床68GB実測)、非対称配置が事実として成立 | 層3・系統2・5 | 基礎工事面積は稼働ゼロでも消えない |
| 7/26朝 | ノード間フォワーダ開通 → 10秒切断バグ → 修正 | 系統6 | 中継層は「流れ続ける」設計が事故らない |
| 7/26昼 | RAG生成を32BへURL一行切替で復旧 | 系統6 | 標準インターフェースの実証 |
| 7/26昼 | 測定A/B確定、DBキャップ80GB実測適用(cgroup実効確認) | 系統1・3 | 実地棚卸(cgroup直読み) |
| 7/26午後 | リプレイ方式設計・捕獲・窓の縮小判断(90分→55分実測見積) | 系統5 | 統制実験・事前登録・挙証責任 |
2. 本文 ── 縦糸(層)・横糸(系統)・格子
本書は2軸の格子である。縦糸=原理の層(Whyが物理へ降りる、青系)と横糸=実務の系統(Whatが運用へ広がる、琥珀系)。タブで切り替え、「格子」で交差を一望する。印刷時は3ビューとも全展開される。
層1物理層 ── 帯域を売って容量を買った設計
GB10の統合メモリはLPDDR5X公開で、メモリ帯域は約273GB/s公開。HBM搭載のデータセンターGPUより桁で狭い代わりに、CPU/GPU共有の128GB(実使用可能121.7GB実測)という容量を得ている。CPUとGPUはNVLink-C2C公開で結合され、単一の物理メモリプールを共有する。
この取引 ──「帯域を売って容量を買う」── が本書の全事象の物理的前提である。容量があるから72Bクラスが載る。帯域が狭いからdecode(1トークン生成のたびにKVキャッシュ全体とモデル重みを読み直す工程)が律速になる。32Bの単流生成10.7 tok/s実測、72Bの約5 tok/s実測という観測はこの帯域の直接の帰結であり、後述の「RAG遅延の犯人はKV不足ではなく生成速度」(系統5)の物理的根拠でもある。
そしてもう一つ ── dGPUの時代にVRAMとホストRAMを隔てていた物理的な壁が、この設計では存在しない。推論サーバの暴走とデータベースの暴走が同じ床で起きる。壁の消失は層2以降のすべての事故の舞台装置である。
層2OS/ドライバ層 ── 同一のページアロケータを奪い合う
統合メモリでは、GPUドライバ(nvidia_uvm)が管理するページも、ファイルI/Oのページキャッシュも、プロセスのヒープも、同一の物理ページアロケータから供給される。ここでLinuxのページ2分類が生死を分ける:
| 種類 | 正体 | メモリ圧力時 |
|---|---|---|
| file(ページキャッシュ) | ディスクに正本がある | 捨てるだけで回収できる |
| anon(ヒープ等) | ディスクに正本がない | swapに書く以外に回収不能。swap禁止なら詰む |
filepage側だけなら手動でも解放できる:
sync
echo 3 | sudo tee /proc/sys/vm/drop_caches
# 解放されるのは file(回収可能側)のみ。anon は1バイトも減らない
7/25夜の暴走ではSurrealDBが87GB実測(うち回収不能なanonが57.7GB実測)まで肥大した。「pingには応えるがSSHできない」ホスト沈黙の機構はここにある:ICMP応答はカーネル内で完結するが、SSHログインは新プロセス起動=新しいanonページの割当を要求する。fileを使い果たしanonの壁だけが残った時点で、カーネルは死んでいないのに新規割当だけができない。
もう一つの層2の教訓は計測ツールの信頼性である。同時刻にdocker statsは379.6MiB実測と報告し、cgroup v2の実計上は72.8GB実測だった ── 約190倍の乖離。会計の正本は/sys/fs/cgroup/.../memory.currentとmemory.statのanon/file内訳であり、中間の便利ツールは変換層である(系統3)。
層3ランタイム層 ── PagedAttentionの事前確保と、分母のずれ
vLLMは起動時に--gpu-memory-utilization(比率)で総予約を一括確保し、モデル重みと実行時バッファを差し引いた残りをKVキャッシュプールとして固定する。PagedAttentionはこのプールをOSの仮想メモリと同じ発想で固定ブロックに分割し、リクエストへページ単位で貸し出す ── 断片化を消す代わりに、プールは実行時に伸縮できない。
KVのトークン単価は第一原理から計算できる:
KV/token = 2 × 層数 × KVヘッド数 × head_dim × dtypeバイト数
72Bの例: 2 × 80 × 8 × 128 × 1B(fp8) = 160 KiB/token [実測環境の構成]
プール = 152,224 tok × 160KiB = 23.2 GiB
検算: 152,224 ÷ 32,768 = 4.65 ≒ 起動ログの Maximum concurrency 4.65x ✓
さらに「分母のずれ」が2種類ある。第一に、--gpu-memory-utilizationの分母は物理総量であって空き容量ではない ── 0.75指定の72Bは常に91.3GB実測を要求し、他プロセスの占有を考慮しない。第二に、CUDA graphプロファイリング(vLLM 0.21以降既定有効)が予約の一部を消費し、その量は起動ごとに変動する。実ログ:
INFO [utils.py:240] non-default args: {'max_model_len': 32768, 'gpu_memory_utilization': 0.6}
INFO [gpu_worker.py:477] The current --gpu-memory-utilization=0.6000 is equivalent to
--gpu-memory-utilization=0.5909 without CUDA graph memory profiling.
INFO [kv_cache_utils.py:1731] GPU KV cache size: 403,360 tokens
INFO [kv_cache_utils.py:1732] Maximum concurrency for 32,768 tokens per request: 12.31x
別インスタンスでは同じ0.6000指定が0.5837相当実測と表示された。固定の補正係数は存在しない ── 目標達成は必ず起動ログの実測トークン数で確認する(二重帳簿、系統3)。
最後に本書最重要の実測:総予約からKVプールを引いた非KV床(重み+実行時バッファ)は約68GB実測で、utilizationをいくら下げてもこれ未満にはならない。空き66.3GB実測の環境では、72Bはいかなる設定でも起動不能だった。
層4モデル/カーネル層 ── ルーフラインとFP4の二面性
ルーフライン分析では、prefill(プロンプト一括処理)は行列積が支配する演算律速、decode(1トークンずつの生成)は重み・KVの読み出しが支配する帯域律速である。外部ベンチではGB10級でprefill約6,200 tok/s公開が出る一方、denseモデルのdecodeは約6 tok/s公開に落ちる ── 3桁の非対称。工場で言えば、段取り(prefill)は速いのに加工(decode)のたびに棚全体を読み直すから搬送レーンが詰まる。
この非対称の突破口が2つある。第一にMoE:総パラメータに対して各トークンが通るactiveパラメータが小さいモデルは、decodeで読む重みが減るため、同帯域でdense約6 tok/s vs MoE約50 tok/s公開という差が生まれる。帯域が固定なら、読む量を減らすのがモデル側の解である。第二に量子化 ── ただしsm121(GB10)のNVFP4は「格納形式としてのFP4」であり、演算はより高精度の形式に展開して行われる公開。FP4は帯域と容量を節約する圧縮であって、演算スループット4倍の魔法ではない。格納形式と演算形式の区別は、カタログ数値を読むときの必須リテラシーである。
層4にはもう一つ、今回の実務に直結した現象がある:prefix cacheのヒット率はモデルでなくワークロードの性質で決まる。反復プレフィックス主体の旧ワークロードでは82%実測、検索チャンクが毎回異なるRAGでは9.5%実測。同じ機構が負荷の形で天使にも置物にもなる。
層5システム設計層 ── 容量・帯域・安定性は独立の3制約
層1〜4を積み上げると、統合メモリ機の設計問題は独立した3つの制約に分解される:
| 制約 | 今回の現れ | 解いた装置 |
|---|---|---|
| 容量(誰が床を使うか) | 72B 91.3GB実測+DB定常57.6GB実測 > 121.7GB実測で物理的に共存不能 | 非対称配置・cgroupキャップ80GB実測・OS床10GB |
| 帯域(どれだけ速く流れるか) | decode律速 10.7 tok/s実測、RAG応答207〜287秒実測 | 未解決(生成トークン削減・MoE検討が次の手) |
| 安定性(壊れ方を選べるか) | ホスト沈黙(障害の観測すら不能) | キャップ=単体死への局所化・チェックポイント分割 |
重要なのは3つが独立であること。容量を解いても帯域は1バイトも速くならない(今回まさに容量と安定性だけ解いた)。逆に、帯域の問題(RAGが遅い)を容量の道具(KV増設)で解こうとした誤診が7/26朝まで生きていた。制約の分類を誤ると、正しい道具を間違った病気に使う。
系統1資源は量でなく性質で分類する
Q1. 同じ「メモリのGB数」なのに、なぜ扱いを変える必要があったのか?
Q1-1. 回収できるか ── anonとfileを分けるものは何か
fileはディスクに正本があるから捨てられる。anonは捨て先がない。87GB暴走実測の恐ろしさは総量ではなく、57.7GB実測が回収不能側だったことにある。手動解放(drop_caches)が効くのはfile側だけ ── 層2参照。
Q1-2. 成長するか ── 静的予約とテナントを分けるものは何か
vLLMの73.7GB実測は巨大だが一度確保したら不動(予測可能)。SurrealDBは初期19.5GB実測と小さいが成長する(一括投入時105→256MB/ソース実測)。危険度は現在量でなく微分係数で決まる。
Q1-3. 誰の予約か ──「空き」という数字はなぜ信用できないのか
DB再作成直後の「空き101GB実測」は、HNSW索引が検索のたびに回帰させる「予約済みの空き」だった。スナップショットの空きと定常の空きは別物である(系統5のライブ比較不能の根拠)。
解説:今回の全障害と全改善は、GBという単一の数字を「回収可能性・成長性・所有権」の3軸で割ったときに初めて説明可能になった。従来のジョブ管理(入口で審査→実行→返却)はこのうちどの軸も扱わない ── SurrealDBのような長命テナントは入口を一度しか通らないからである。障害の本質は「ジョブ管理の失敗」ではなく「テナント管理(不動産管理)の失敗」であり、これがG軸(テナント予算の強制:cgroupキャップ+anon水位監視+分割搬入)を独立に新設した理由である。
系統2配置は性能でなく壊れ方で決める
Q2. 埋め込み性能は両ノード同一なのに、なぜ片寄せが「正しい」のか?
Q2-1. 統合メモリは何を与え、何を奪ったのか
与えたもの:1ノードで72Bが載る容量。奪ったもの:VRAM/ホストRAM間の物理的な隔離。全プロセスが同一の破綻ドメインに入った(層1)。
Q2-2. 静的予約型と成長型の同居はなぜ構造的に危険か
縮まないもの(vLLM)と太るもの(DB)が同じ床に居ると、「いつOOMするか」だけが問題になる。7/26朝の算術:72B 91.3GB実測+DB定常57.6GB実測>121.7GB実測 ── 物理的に不可能。
Q2-3. 隔離を復元する手段の階層はどう使い分けるか
cgroup(同一ノード内の壁:被害の局所化はできるが総量は増えない)→ ノード境界(完全な壁:非対称配置)→ 時間窓(時間軸の壁:同時に存在させない)。今回は3つ全部を使った。
解説:埋め込みスループットが両ノード同一である以上、分散する性能上の理由はゼロ。ならば配置の決定要因は「どう壊れるか」に移る。推論ノード(静的予約のみ)とデータノード(成長型テナント+キャップ)に分けることで、どちらの障害も相手に波及しない。ハードウェアが消した隔離をノード境界で復元する ── これが非対称配置の本質であり、「必須に格上げ」を経て7/26に事実として成立した。
系統3観測はいつ結論になり、いつ罠になるか
Q3. なぜ同じ実測データから、逆の結論が2回も出たのか?
Q3-1. 「32並列で1.8%」は何を語り、何を語らないか
語ったもの:その瞬間のワークロード(1本平均225トークン実測)での占有。語らなかったもの:最悪ケース(32×40,960=プールの3.3倍実測)。使用率は平均の指標、容量は最悪ケース×同時性で決まる。
Q3-2. 指定値・帳簿値・実効値はなぜズレるのか
間に変換層があるから。0.6指定→CUDA graph補正→実効0.5909相当実測(起動ごとに変動)。docker stats→集計層→cgroup実計上と190倍乖離実測。変換層を跨ぐ推論は実測でしか検証できない。
Q3-3. レビュー・測定標準・事前登録は、それぞれ何のバイアスを殺すか
独立レビュー=他者による事後是正(結論に投資した観測者が立てない問いを立てる)。測定標準=手順による是正(帳簿でなく現物を数える:cgroup直読み)。事前登録=時間による是正(データを見てから基準を動かす誘惑を、データが無い時点で封じる:リプレイ判定ルール)。
解説:7/25朝の「50倍過剰」と7/26朝の「共存17GB余地」は、どちらも観測者が結論に投資した後の推論だった。前者は独立レビューが、後者は第一原理計算(KV 23.2GiB実測)が殺した。3日で査読→測定標準→プレレジストレーションという実験計画法の三段装置を実務に持ち込んだことになる。腐敗を止める装置は3つで1組である。
系統4段取り替え(SMED)── 遷移コストは消せない、移せるだけ
Q4. SMEDの内/外段取り分離は、この工場で何に対応するのか?
Q4-1. 外段取り化できるもの
重みのNVMe常置・コンテナイメージのpull済み維持・リプレイ用プロンプトの捕獲(サービス稼働中に窓の作業を前倒し)。捕獲の外段取り化で窓は90分→55分実測見積に縮んだ。
Q4-2. 内段取りに残るもの
コンテナのstop/start、72B重みのロード、HNSW索引の再常駐 ── メモリという場所の物理的占有の切替は時間の外に出せない。
Q4-3. OOM-killとチェックポイント再起動は何が違うのか
どちらも「プロセスを殺してanonを返す」。違いはタイミングの所有権だけ ── 停電で止まるか、計画停止か。flush済みの境界を自分で選べば、復旧検証(901,162チャンク実測の無欠損確認)を運用に織り込める。
解説:SMEDの深い教えは「段取り時間は消えない、ラインが止まっている時間から止まっていない時間へ移せるだけ」。この工場での実装が「名前付きモード・マニフェスト」(serve / heavy_ingest / llm72b-window / train)であり、モード遷移だけをジョブブローカーが調停する。max-model-len 32768化(受入9.78→12.31本実測)は例外的に「無停止の段取り改善」── 予約の単位を変えるだけで床を動かさない一手だった。
系統5大型機と小型機の公平な比較
Q5. 72Bと32Bを公平に比べるとは、何を揃えることか?
Q5-1. 統制 ── なぜ入力を段階ごとに同一化するのか
RAGパイプライン(strategy→research×N→final)のfinal入力には前段の出力が埋め込まれている。揃えなければ、測っているのが「モデルの能力差」か「前段の出力差の伝播」か分離できない。
Q5-2. 測定不能の明示 ── エンドツーエンド比較はなぜ不可能か
72Bが自分の戦略で検索し自分で統合する連鎖を測るには、DB稼働+72B稼働の同時性が必要。本ノードでは物理的に不可能(72B 91.3GB実測+DB定常57.6GB実測>121.7GB実測)。段階別比較は妥協ではなく測定可能な範囲の最大である。測れないものを測れたことにしない ── 主張範囲を区切るのは弱点ではなく誠実さである。
Q5-3. 実用性の重み ── 品質の勝ちは速度の負けをいつ上回るか
72Bは約3分/リクエスト実測見込み。品質で勝っても、この遅延を正当化するかは別のテストである。事前登録した判定ルール:退役=明確勝ちセルゼロ/「明確に勝つ」=セル内全ペア優位かつ実害級(幻覚・引用正誤)の差。文体の好みは差と数えない。挙証責任は72B側にある。
解説:リプレイ方式(捕獲→窓→盲検判定)は統計学の統制実験のインフラ翻訳である。ブラインドの生成(A/B割当・鍵の保持・思考タグ剥離・時間情報除去)は判定者の外で行う ── 判定者が生データからモデルを推定できる経路を閉じるため。判定は系統×段階のマトリクスで行い、strategy段階は紙上評価ゆえ信頼度を一段下げて集計する。
系統6コンベアとパレット規格
Q6. なぜ生成先の切替は「URL一行」で済んだのか?
Q6-1. パレット規格の力 ── OpenAI互換APIは何を固定し何を自由にするか
荷姿(messages)・伝票(model名)・検収(choices/usage)を固定し、その先の機械を完全に自由化する。規格に乗り切らない部分(Qwen3の思考タグ、チャットテンプレート差)が、そのまま運用の懸案リストになる ── 標準化の境界線は懸案の地図である。
Q6-2. 10秒ドア事件 ── なぜストリーミングだけ通ったのか
中継層にとって「無通信」と「処理中」は区別できない。フォワーダの接続タイムアウト(10秒)がrecvにも残存し、非ストリーミングの長生成をきっかり10.0秒実測で切断した。ストリーミングは「処理中です」という信号が副産物として流れ続けるため誤判定されない。修正(settimeout解除)後、1500トークン非ストリーミングが137秒実測で完走。沈黙を状態として使う設計は、中継層を挟んだ瞬間に壊れる。
Q6-3. 検品所はなぜ中央の1箇所がよいのか
計量(トークン・遅延・宛先)を依頼元ごとに取ると、「コンテナ建替えで帳簿消失」が依頼元の数だけ再発する(vLLMのヒストグラムはプロセス内メモリで、再作成時に実際に消えた)。ゲートウェイに一元化すれば機械が何度死んでも帳簿は残る ── 観測装置を観測対象から分離する計測の古典原理。
解説:7/26のRAG復旧が「URL一行」で済んだのはパレット規格の配当そのもの。コンベアの発展形は、仮設フォワーダの本設化ではなく検品所付きゲートウェイへの昇格 ── モデル名ルーティング・fan-out(審査員パネル)・方言吸収・計量一元化。ただしゲートウェイ自体もテナントであり(系統1)、GPU工場の床には置かず管理棟(Mac mini)に置く。同期=ゲートウェイ/非同期=ブローカーの二本立てで、パレット規格だけを共有する。
格子ビュー ── 層 × 系統の交点に事象をマップする
縦=原理の層(青)、横=実務の系統(琥珀)。各セルは「その層の原理が、その系統の実務として現れた瞬間」。該当が無い交点は「該当なし」と明記する。横スクロール可。
| 系統1 性質分類 | 系統2 障害ドメイン | 系統3 観測 | 系統4 SMED | 系統5 公平比較 | 系統6 コンベア | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 層1 物理 | 物理121.7GB実測の単一プールが「所有権」軸を生む(dGPUなら物理的に分離済み) | 統合メモリが障害ドメインを1つに融合 ── 隔離の消失が全事故の舞台 | 帯域273GB/s公開がdecode律速の物理根拠 ──「遅い=KV不足」の誤診を正した | 72B重みロード時間=内段取りの物理下限(帯域で決まる) | 72B 91.3GB実測は物理の75% ── 同時比較の物理的不可能性 | 工場間コンベアの物理層はtailnet経由(暫定)── 高速リンク直結は将来課題 |
| 層2 OS/ドライバ | anon/file=回収可能性の軸そのもの(57.7GB実測が回収不能側) | 87GB実測暴走→anonの壁→ping可・SSH不可のホスト沈黙 | docker stats 379.6MiB vs cgroup 72.8GB実測=190倍乖離。正本はmemory.stat | チェックポイント再起動=anonの計画返却(OOM-killとの差はタイミング所有権) | 窓の安全条件:DB停止後に空き確認してから72B起動(順序が生死) | ソケットタイムアウトがrecvに残存=10秒ドア事件の機構 |
| 層3 ランタイム | vLLM 73.7GB実測は巨大だが不動 ── 静的予約という性質 | 非KV床68GB実測 ── utilizationをいくら下げても消えない基礎 | 0.6指定の実効が起動ごとに変動(CUDA graph)→ 二重帳簿で管理 | max-model-len 32768化=無停止の段取り改善(9.78→12.31本実測) | プール152,224tok実測で実効12本 ──「5並列がKV上限」仮説の棄却 | OpenAI互換API=パレット規格。72B→32B切替がURL一行 |
| 層4 モデル/カーネル | KV単価160KiB/tok実測 vs 16.6KB/tok公開 ── 単価はモデル構成の関数 | 該当なし(モデル層の事象は障害ドメインを跨がなかった) | prefix hit 82%→9.5%実測 ── ヒット率はワークロードの性質 | prefill=演算律速の段取り。chunked prefillは段取りを刻む施策 | Qwen3思考タグが遅延・判定の交絡因子 → 剥離して盲検 | チャットテンプレート差・思考タグの方言はゲートウェイで吸収 |
| 層5 システム設計 | G軸(テナント予算)の新設 → 資源台帳の形式化へ | 非対称配置=ノード境界で隔離を復元(必須格上げ→事実成立) | 独立レビュー→測定標準→事前登録の三段装置 | モード・マニフェスト(serve / heavy_ingest / llm72b-window / train) | 判定ルール事前登録・挙証責任は72B側・実用性テスト(約3分/件実測) | 同期=ゲートウェイ/非同期=ブローカーの二本立て設計 |
3. 検証プロトコル ── 命題と反証実験の記録
本書の主要な命題は、すべて反証を試みる実験とセットで記録する。「棄却された自説」も消さずに残す ── 腐敗を止める装置の実地記録だからである。
| # | 命題(当初の仮説) | 反証実験 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1 | KVプールは実需の50倍過剰(使用率1.8%実測より) | max_model_len×並列数の最悪ケース計算+プロンプト長ヒストグラム取得 | 棄却。最悪ケースはプールの3.3倍実測。ただし実利用は全件2,000tok以下実測→「単位の変更」で右サイズ化 |
| 2 | RAG 5並列はKV上限4.65本実測に衝突している | 実プロンプト長分布(2K〜10K実測)×プール容量で実効同時数を計算 | 棄却。実効12本以上。遅延の律速は生成速度(帯域) |
| 3 | DBキャップは48GBで足りる | 一括投入中のcgroup実測 | 棄却。ピーク87GB実測。キャップは定常ピーク×安全率で決め、一括投入は分割実行で扱う |
| 4 | DBのanonは肥大(流せば消える) | 再起動→検索実行後のanon推移の観測 | 反証。定常57.6GB実測へ回帰=HNSW常駐の構造負荷。構造分と成長分の分離は未測定 |
| 5 | mem_limitはcgroup v2で実効か(未検証だった) | 適用後にmemory.max / memory.swap.maxを直読み | 確認。80GB実測強制・swap禁止が実効 |
| 6 | フォワーダは長時間生成を通す | max_tokens=1500の非ストリーミング実行 | 反証→修正。きっかり10.0秒実測で切断→settimeout解除後137秒実測完走 |
| 7 | 72Bはutilizationを下げれば縮小起動できる | 非KV床の算術(総予約−KVプール) | 不可能を証明。床68GB実測>空き66.3GB実測 ── どの設定でも起動不能 |
| 8 | 32Bでは品質が落ちる(72Bが必要) | リプレイ盲検判定(系統×段階マトリクス・判定ルール事前登録済) | 検証中。窓55分実測見積・70分上限で実施予定 |
4. 未解決・次の作業 ── 6つの「新たな問い」
各系統の末尾に生まれた問いは、そのまま作業リストである。答えた原理が次の問いの道具になる連鎖を保て。
| 1 | 資源台帳の形式化 ── 回収可能性・成長率・所有者の3軸タグをフリート全プロセスに付与(G軸テレメトリの発展形) |
| 2 | 高速リンク時代の設計思想 ── ノード間直結が実現したとき、障害ドメイン分離の壁を保つか融合するかの事前判断 |
| 3 | 比較実験テンプレート化 ── 捕獲→窓→盲検→事前登録ルールの骨格を、判定のたびに人手で組まない標準ワークフローへ |
| 4 | モード・マニフェストの正式実装 ── heavy_ingest等をGATED_TYPESへ。モード遷移自体の所要時間をSMED的に計測・短縮 |
| 5 | 72B資産の処遇 ── 判定結果に応じて、退役なら資産の処分・保全、維持なら部分窓運用スケジューラの設計 |
| 6 | ゲートウェイ境界設計 ── 同期=ゲートウェイ/非同期=ブローカーの二本立てで、パレット規格だけを共有する具体設計 |