Claude活用 / 手を動かす / 2026.09.19

Claude for Excel と Copilot in Excel で特許を○×判定させたら、判断が割れた── 80件のボウリング特許で見た判定傾向と運用ルール

特許調査の下流には「数百件のリストを読んで関係あるものに印を付ける」作業がある。これを Excel から出ずに AI にやらせる最小構成が、知財・情報フェア2026(2026年9月17日)で野崎篤志氏(イーパテント)の「ライブ特許分析®」として公開実演された(配信アーカイブ)。発明の名称と要約を読ませ、隣の列に○×と10〜20字の理由を書かせる。それだけである。
面白いのはそこから先で、同じデータ・同じプロンプトを Claude for Excel と Copilot in Excel に入れると要所で判断が割れた。本稿はその実演を、手元で再現できる手順と運用ルールに整理する。判定例や数字は野崎氏の実演時のもので、解釈の責任は筆者にある。題材は「ボウリングのボール」に関する特許80件。テーマが単純なほど、AI の判定傾向の差が見えやすい。

形式 会場で見た実演の再現手順 出典 野崎篤志氏(イーパテント)「ライブ特許分析®」知財・情報フェア&コンファレンス2026、2026年9月17日。実演は YouTube で公開されている 対象 Excel で特許リストを扱う人・Claude か Copilot のどちらかを社内で使える人
01最小構成

列を二つ足すだけ

前提は「特許データベースから CSV か Excel でリストを落として使う」という、多くの知財部門が既にやっている運用である。Claude を契約しているなら Claude for Excel のアドイン、Copilot が入っているなら右下の Copilot から、同じことができる。

内容誰が書くか
E発明の名称データベースから落としたまま
H要約同上
I○ または ×(ボウリングのボールに関する特許・実用新案か)AI
Rなぜ○(×)にしたか。10〜20字の日本語AI

プロンプトは実演で使われたものを、列の役割が分かるように書き直すとこうなる。

E列(発明の名称)とH列(要約)のテキストを読み、
「ボウリングのボール」に関する特許または実用新案であれば I列に ○、
そうでなければ I列に × を入れてください。
さらに R列に、なぜ ○ または × にしたかの理由を、日本語で10〜20字程度で書いてください。

理由の列を省かない

実演で最も強調されたのがここだった。○×だけを書かせると、後で見直すときに×を全部読み直すしかなくなる。理由が隣にあれば、○の群からサンプリングして的外れを除く作業が、ゼロから精読するより桁違いに速い。感覚値で精度は7〜8割、2〜3割は誤判定が混じるので、理由付きの判定ログは必須である。

実演ではモデルに Opus 5 が選ばれ、「一番いいのは Fable だが今日は Opus で」という補足があった。判定だけならこれで足りるが、後述のクラスタリングでは上位モデルの差が出る。

02比較

同じプロンプトを Copilot に入れる

同じ80件を隣にコピーし、Copilot in Excel にまったく同じプロンプトを入れる。I 列と、Copilot 側の判定列を IF 関数で突き合わせると、一致している行が大半で、いくつか割れる。実演で挙がった割れ方は次の二つだった。

案件CopilotClaude読み方
ソフトボウリング(軽量ボールを含むセット用具)×「ボール」を含むセット用具。Copilot はボールの語で拾い、Claude は「ボールそのもの」ではないと切った
ボール返却装置(ボールの通過を制御する、ボウリング場の機械)×ボールを扱う装置。Copilot はボウリング場の設備として広く取り、Claude は主題がボールでないと判断

Claude は「ボールそのもの」に厳密で、Copilot はキーワードに敏感で広く拾う。

どちらが正しいかは目的で決まる。ピンポイントに関連の高いものを抽出したいなら Claude の厳密さが効く。クリアランス調査のように漏れを避けたいなら Copilot の広さが安全側に働く。実演で示された運用ルールは単純だった。

  1. ○・○ は該当として採用する
  2. ×・× はノイズとして捨てる
  3. 割れだけを人が読む。理由の列を見れば、どちらの解釈で割れたかがすぐ分かる

さらに Google スプレッドシートには =AI("プロンプト") でセルの中から Gemini を呼ぶ関数がある。野崎氏は Claude・Copilot・Gemini を含め最大4系統で○×を並べ、多数決で集計する運用をしていると述べた。系統を増やすほど「割れ」の意味が濃くなる。

03分類

80件を7〜9のクラスタに分ける

○×の次は分類である。実演では、80件の名称と要約を Claude に読ませ、「ボウリング関連特許を技術クラスタに分類してください。クラスタ数は7〜9程度で」と指示した。結果は次のようなまとまりになった。

5
ボール本体の構造
7
ボールの表面処理・メンテナンス
6
ボールの収納・運搬
4
その他

出願人とクロス集計すれば、どの社がどの塊に偏っているかが件数で見える。ここでも「Haiku ではなく上位モデルを」という注意があった。判定は軽いモデルで足りるが、クラスタリングはモデルの理解力の差がそのまま出る。

AI の分類は「所与の母集団」の中でしか整理しない

野崎氏の締めくくりは注意喚起だった。FI や IPC といった既存分類と同じで、AI のクラスタリングやテキストマイニングは、渡した80件の範囲でしか塊を作らない。既存分類にない新しい切り口や、まだ公開されていない知見に基づく発見は出てこない。依頼者である技術者や事業部の観点——想定用途、潜在課題、新技術の出現仮説——を人間が分析軸として先に置き、AI は広い母集団を処理する補助に回す。この役割分担を崩すと、きれいな図が出るだけで戦略に接続しない。

04手順

手元で再現する

  1. リストを用意する。テーマを一つに絞った特許を50〜100件。名称と要約の列があればよい。最初は「ボール」のように誰が見ても判定できる題材が向く
  2. I 列と R 列を空けておく。プロンプトで列名を指定するので、位置は固定する
  3. Claude for Excel で判定。上のプロンプトを入れる。80件で数分
  4. ○の群をサンプリングして読む。理由の列を見ながら、的外れを除く。ここで精度の感触をつかむ
  5. Copilot(または Gemini)で同じことをする。IF 関数で一致・不一致を出し、割れだけ読む
  6. 分類は分析軸を先に決めてから。「7〜9クラスタ」の指示は出発点で、依頼者の観点を軸に指定し直す

もくもく会でやるなら

同じ80件を全員が手元で判定し、割れた案件を持ち寄ると、モデルごとの「解釈の癖」が1時間で見える。題材は J-PlatPat から落としたリストで足りる。割れの理由を並べて眺めるのが、この演習のいちばん面白いところである。

関連する読み物
同じフェアの記録:知財・情報フェア2026で、12のブースに教えていただいたこと(同じ6つの質問を携えてお伺いして回った記録)
背景:知財業務のAIパイプライン化(○×判定の先にある「判断の基盤」の話)
本稿は知財・情報フェア&コンファレンス2026で野崎篤志氏(イーパテント)が「ライブ特許分析®」として公開実演した内容(YouTube)を、筆者が会場で聞き取り、再現できる手順として整理したものである。判定例と傾向の記述は実演時のものであり、モデルの更新で変わり得る。解釈と要約の責任は筆者にあり、野崎氏の見解を代弁するものではない。誤りの指摘はもくもく会の掲示板へ。
羽矢﨑 聡(AI × 知財 もくもく会)|2026-09-19(同日改訂:出典を野崎篤志氏の公開実演と明記)