知財部の忙しさは、なぜ理解されないのか
忙しさは活動量から生まれ、理解は成果からしか得られない。
知財では、この二つの間が何重にも切れている。切れ目を五つ挙げ、悪循環として読み、出口を考える。
- ①起きなかったことで現れる
- ②時間差
- ③量を決めるのは事業ではない
- ④部門内の物差し
- ⑤処理として届く
- 見えない成果が外から読み取れない(①②④)
- 選べない仕事を自分で選べない(③⑤)
一五つの切れ目
働いた量が成果になり、成果が外の理解になる。知財では、その経路が五か所で切れている。
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①
成果が「起きなかったこと」で現れる見えない
訴えられなかった、模倣されなかった、参入されなかった。予防がうまくいくほど、何も起きていないように見える。
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②
時間差が大きい見えない
出願が事業に効くのは数年先だ。今年の忙しさと今年の業績が結びつかず、年度単位の評価に乗らない。
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③
仕事量を決めるのが事業ではない選べない
発明届出、特許庁の期限、他社の出願や警告が量を決める。事業の優先順位と無関係に発生するので、事業側からは忙しさの理由が見えない。
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④
物差しが部門内の言葉見えない
件数、登録率、期限遵守は活動量の報告だ。売上、利益、シェアという経営の物差しに置き換えられていない。
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⑤
仕事が「処理」として届く選べない
依頼が判断ではなく作業の形で来るため、知財部自身も結果がどう使われたかを知らない。自分の仕事の価値を、自分でも語れなくなる。
二つの種類に分かれる
五つは同じ種類の問題ではない。
見えない①②④
成果はあるのに、外から読み取れない。いつ、何に効いたのかを、経営の言葉で示せない。
選べない③⑤
何をどれだけやるかを、知財部が決められない。量は外から来て、仕事は作業の形で届く。
二五つは、悪循環になっている
処理に追われる → 事業の判断に関わる時間がない → 成果が見えない → 人も予算も増えない → さらに処理に追われる。
起点は「選べない」側にある。処理に追われるのは、量と形を外が決めるからだ。そのせいで、成果を見せるための仕事に手が回らず、「見えない」側がそのまま残る。
だから「見えない」側を先に直そうとしても続かない。成果を経営の言葉に置き換える作業は、処理に追われる日々の中で最初に削られる。手を入れる順番は、「選べない」側のどこかからになる。
一人ひとりは目の前の処理を正しくこなしているのに、全体としては理解されない状態が続く。個々の合理が全体の不合理を生む構造は、合理が不合理を生む — 構造の見取り図で扱った。
三忙しさを説明しても、理解にはつながらない
厄介なのは、忙しさを丁寧に説明しても理解にはつながらない点だ。外が知りたいのは「どれだけ働いたか」ではなく「何が変わったか」だからだ。
| 活動量の報告 | 判断の事例 | |
|---|---|---|
| 語ること | どれだけ働いたか | 何が変わったか |
| 物差し | 件数、登録率、期限遵守 | 売上、利益、シェアにつながる判断 |
| 例 | 今期の出願は前年比2割増、期限遵守率は100% | 発売前に他社の権利を確かめ、設計を一か所変えて、発売日を守った |
| 語り手 | 知財部 | 判断した事業側の本人 |
| 聞き手の反応 | 大変ですね | 次も先に相談しよう |
活動量の報告をいくら精密にしても、「見えない」側の三つ(①②④)はどれも解けない。報告の言葉が部門内の物差しのままだからだ。
四出口は、判断に結びつけて事例をつくること
出口は、活動量の説明を増やすことではない。仕事の一部を特定の判断に結びつけ、「この判断がこう変わった」と語れる事例をつくることにある。
ただ、二の悪循環が正しければ、判断に関わる時間はない。だから出口は、新しい時間をほとんどつくらずに入れるところから始める。
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⑤ 処理として届く に
入口で一つだけ聞く
依頼を受けるときに「この結果で何を決めますか」と聞く。処理の流れは変えずに、依頼が判断の形になる。答えが返ってこない依頼は、結果が使われない仕事の目印にもなる。
要る時間:受付時の質問一つ -
② 時間差 に
判断のときに書き残す
数年後に効果が出るころには、なぜその出願をしたのか誰も覚えていない。判断した時点で「何を期待してこう決めたか」を一行残す。事例は後から集めるより、判断の時点で仕込んでおくほうが確実だ。
要る時間:判断ごとに一行 -
① 起きなかったことで現れる に
抑止の痕跡を拾う
他社の設計変更、交渉相手の譲歩、参入の見送り、警告への反論が通ったこと。起きなかったことにも、探せば痕跡が残っていることが多い。「この権利がなければ、相手は何をしていたか」を言葉にする。
要る時間:探す手間 -
④ 部門内の物差し に
事業側に語ってもらう
「この判断がこう変わった」は、知財部が語るより、判断した本人が語るほうが届く。売上、利益、シェアへの置き換えも、事業側と一緒にやる。
要る時間:事業側との対話
③ 量を決めるのが事業ではない には、直接の手当てが無い。発明届出も期限も他社の動きも、量そのものは選べない。選べるのは、届いた処理のどれを判断に結びつけるかだ。
四つのうち、最初の一つが入口になる。入口で判断を聞けば、結果がどう使われたかを知財部が知ることができ、残りの三つの材料がそこから集まる。図2の「判断を一つ挟むと」は、この向きで回る循環を描いている。
依頼の文面の裏にある判断から逆算して仕事を組み立てる考え方は、知財コンサルとは何かで詳しく扱った。成果物は権利ではなく判断だ、という見方はこの論考と同じ側にある。
まだ決めていないこと
- 最初に結びつける判断をどう選ぶか。事例になりやすい判断と、事業にとって重い判断は一致しない
- 予防の成果を、どこまで言ってよいか。反実仮想を言い過ぎると、かえって信頼を損なう
- 件数や登録率などの活動指標を、捨てるのか、判断の事例と並べて残すのか
- 外から来る仕事量(③)を、事業の優先順位と突き合わせる仕組みを持てるか
- 事例がたまるまでの数年を、何で支えるか
あわせて読む:知財コンサルとは何か / 合理が不合理を生む
写真で一言
この論考のお題写真。説明はしない。
思いついた一言は、掲示板か、もくもく会の場でどうぞ。写真は生成AIで作ったイメージで、実在の人物・企業とは関係ありません。