大阪の企業家と特許を、原本で読む
大阪企業家ミュージアムが紹介する企業家の発明を、公報の原本でたどる特集です。企業家本人の特許に加えて、チキンラーメンの日清食品など、関連する会社の特許も読みます。
企業家たちの発明は特許に限りません。商い、金融、興行、流通の工夫も同じように発明です。この頁では、そのうち明細書という形で読めるものから順に確かめていきます。
いまの状況
氏名や社名が同じだけでは、同じ人物や会社とは言えません。この頁に載せるのは、明細書に印字された名前と発明の分野が、ミュージアムの紹介と矛盾しないものだけです。
知っている会社の名前から読む
ミュージアムの紹介には、人物ごとに主な関連企業が挙がっています。企業家本人が発明者でなくても、その会社の特許を読むと、事業が何を工夫していたかが見えてきます。
| ミュージアムの人物 | 関連企業 | 読んだ特許 |
|---|---|---|
| 安藤百福 | 日清食品 | 特公昭35-16975 即席ラーメンの製造法 |
| 山邊丈夫 | 東洋紡 | 特許第16016号 捲經壓轉子(大阪紡績) |
| 武藤山治 | カネボウ | 特許第15815号 鐘紡右撚初紡機(鐘淵紡績) |
これらは会社名義の特許で、表の人物が自ら発明したという意味ではありません。大阪紡績は東洋紡の前身の一つ、鐘淵紡績はカネボウの旧社名です。ミュージアムの関連企業の欄には現在の社名が載っています。
日清食品:即席ラーメンの製造法
- 番号
- 特許出願公告 昭35-16975(J-PlatPatで原本を見る)
- 出願人
- 日清食品株式会社(高槻市)
- 発明者欄
- 安藤須磨(池田市)
- 日付
- 出願 昭和34年1月22日、公告 昭和35年11月16日
明細書が目指すのは、熱湯をかけてむらすだけで味付けもいらず、すぐ食べられて長く保存できるラーメンです。
その目的は単に熱湯を掛けてむらす事のみによつて何等調味を必要とせず
明細書によれば、在来の製品の多くは麺の原料に粉末の調味料を混ぜ込んでいました。この発明は順序を変えて、先に麺を細く形成し、そこへ濃縮した調味液を噴霧して浸み込ませ、高温の油で短時間揚げてから乾燥させます。混ぜ込まないことで、折れにくい細さと味付けを両立させるという説明です。
この公報の発明者欄には安藤須磨と印字され、出願人は日清食品株式会社です。公報からは、発明に関わった人たちの関係や役割までは分かりません。特許を探すときは、人名だけでなく出願人からも当たる必要があることが分かる例です。
大阪紡績:織物の耳をそろえる転子
- 番号
- 特許第16016号(J-PlatPatで原本を見る)
- 発明の名称
- 捲經壓轉子
- 特許権者
- 大阪紡績株式會社(大阪市西區三軒家上ノ町)
- 日付
- 出願 明治42年1月30日、特許 明治42年4月1日
ミュージアムの山邊丈夫の紹介には、「大阪紡績」の成功が挙げられています。この特許は経糸を巻くときに押さえる転子の発明で、ばねで伸び縮みする2本の筒から成ります。巻き取りの両端が盛り上がる従来の弊害を防ぎ、両端の糸切れを避けて、布の耳をそろえることが目的です。
從來ノ通弊タル兩端ノ隆起膨大ヲ防止シ依テ以テ兩耳經絲ノ切斷ヲ避ケ
鐘淵紡績:外国にならった方式を、研究の結果見直す
- 番号
- 特許第15815号(J-PlatPatで原本を見る)
- 発明の名称
- 鐘紡右撚初紡機
- 特許権者
- 鐘淵紡績株式會社(東京府南葛飾郡隅田村)
- 日付
- 出願 明治41年10月2日、特許 明治42年3月5日
明細書によれば、当時の国内の初紡機は、作る糸の撚りの向きを問わず左撚式で、これは諸外国の実例をそのまま踏襲したものでした。同社は研究の結果、精紡機の糸と前工程の撚りが逆向きであることの不利益を認め、右撚式へ容易に変更できる装置を発明したと書いています。
此ノ方法ハ諸外國ノ實例ヲ其ノ儘踏襲シタルモノナレトモ當會社ハ多年研究ノ結果
当会の読み方としては、前例にならった手順を自社の研究で見直した例で、今の業務の再設計にも通じると考えています。
企業家本人の名前で見つかった特許
こちらは特許権者の欄に、企業家本人の名前が印字されている例です。久保田権四郎はクボタ、新田長次郎はニッタの関連人物としてミュージアムが紹介しています。
久保田権四郎:型枠のほうを回す
- 番号
- 特許第14714号(J-PlatPatで原本を見る)
- 発明の名称
- 回轉式鑄鐵管鑄造裝置
- 特許権者
- 久保田權四郎(大阪市南區西關谷町)
- 日付
- 出願 明治41年6月11日、特許 明治41年7月9日
明細書は目的をこう書いています。
其目的トスル所ハ作業工程ニ於テ著シク操工手數ヲ省キ簡易迅速ニ鑄造シ得ルニ在リ
工夫の中心は、何を動かすかです。明細書によれば、従来は型枠を型込場へ運び、中子を乾燥室から運び、溶けた鉄を運んで注いでいました。この装置では5つの作業場所を決めておき、円形の枠に並べた型枠を順に回して、各場所へ送ります。
効果について、明細書は次のように述べています。作業場所に型枠のほうが来るので手数と時間を大きく省けて、型枠を据え付けたまま動かすので、そのたびに型込の準備をせずに済むという説明です。
順次各操工場ニ廻轉移動シテ型枠カ至ルヲ以テ其手數ト時間トヲ省略スルコト莫大ニシテ
作業そのものに加えて、人や物の動き方を組み替えることで手数を減らそうとしています。AIを前提に仕事の流れを設計し直すときにも、同じ問いを立てられます。
新田長次郎:革の伸びをそろえて、力を伝える
- 番号
- 特許第15366号(J-PlatPatで原本を見る)
- 発明の名称
- 四十一年式重調革
- 特許権者
- 新田長次郎(大阪市南區難波久保吉町)
- 日付
- 出願 明治41年5月28日、特許 明治41年12月12日
調革(調帯)は、動力を伝える革のベルトです。明細書が挙げる課題は、幅の広いベルトを使ううちに両端が伸びて、中央部だけで動力を伝えるようになり、強度が大きく落ちることと、ベルトが揺れることでした。
使用中其ノ兩端カ伸長シテ其ノ中央部ノミニ依リテ動力ヲ傳達スルニ至リ強度ヲ著シク減スルノ憂ヲ除キ
明細書は原料の革そのものに目を向けています。革には繊維組織の粗密があり、部位や表裏によって伸び方が違うという説明です。そこで次の手順で、伸びの度合いをほぼ均一にします。
- 組織が密で伸びにくい部分を裏面から鋤き取る
- 残りの部分を、ほとんど伸びなくなるまで引き延ばす
- 鋤き取った革片を元の位置に貼り戻し、重ね合わせてベルトにする
明細書によれば、従来はおよそ20インチ以上の幅広ベルトでは、革を縦に切り、伸びのそろった部分から細いベルト地を取って接ぎ合わせていました。この発明では、縦に切って接ぐ手間なしに、革の幅に応じた幅広のベルトを作れるとしています。動力の伝わり方という課題を、材料の部位ごとの違いまで掘り下げて解いた例です。
AIで読むときに、確かめること
こうした明細書はAIに読ませると便利ですが、そのまま信用はできません。原本と照らし合わせて見つかった例です。いずれも2026年11月の少数の試行で、結果は使うAIや試行ごとに変わります。
| 確かめた場面 | 原本 | AIやOCRの出力 |
|---|---|---|
| 第14714号の文字の読み取り | 心受版、斜齒輪 | 心受豚、針齒輪 |
| 特許第1号の配合表の読み取り | 生漆 一〇〇、〇匁 | 読点を落として1000と読み、10倍の値に |
| 番号だけを尋ねる(特許第1号) | 堀田瑞松の錆止塗料 | 別の発明と権利者を、確信度「高」と答えた例 |
読点ひとつで配合が10倍変わります。AIの回答が流暢なことと、内容が正しいことは別です。番号、数値、氏名は原本で確かめる必要があります。
これから足すもの
- 原本で確かめられた企業家と関連企業の特許を、順次この頁に追加します。
- 実用新案と外国の特許も確かめ、取り上げる範囲を広げます。
- 手応えのある発明は知財ビジネスモデル図鑑の形式で、守り方と事業まで読み解きます。
関連する教材:知財ビジネスモデル図鑑、「おもり」の技術史