AI × 知財 もくもく会教材の全一覧

木曜もくもくラジオ

2026年11月5日のまとめ泡とレモンの判決、この1か月の三本、AI開発の動き

木曜お昼の X スペースで流す、約16分の録音の内容をまとめた頁です。聞き逃したところの確認や、元の記事を開くときに使ってください。情報は2026年11月5日午前の時点です。

今日の三行
  1. 泡とレモンの話は、判決の物差しを、模型で動かすと見えるものがある、ということ。
  2. 動画生成AIの話は、もっともらしいと正しいは別だ、ということ。
  3. Cloudflare の話は、失敗が成功の顔で返ってくるのがいちばん怖い、ということ。
今週のお題
自分の作った仕組みのどこかで、失敗しても「成功」や「0件」と返してしまう場所を、一つ探してみてください。見つけたら、エラーをちゃんと返すように直す。見つけたことや作ったものは、掲示板かハッシュタグ #ipfde で教えてください。

今週の一本:泡は認められず、レモンは登録された

記事:ふたを開けると、レモンが浮き上がる(10月30日に、判決の節を追記)

この1か月の棚から三本

10月5日から10月27日までに、29本の教材が増えました。そのうちの三本です。

技術・資本・国家の三つの論理

1923年の富士電機の設立で、シーメンス側の出資は300万円(30パーセント)でした。中身は機械の現物100万円と技術報償金200万円で、現金はゼロです。記事は、これを将来のロイヤルティを出資に置き換えたものと解釈できる、としています。知財制度を、技術の論理を金の論理に換える為替レートとして読む論考です。完成した結論というより仮説を検証するための素材集で、確認中の項目も明記されています。3分25秒の解説動画つきです。

動画生成AIは物理を理解しているのか

拡散モデルは「ありそうな動画」の分布を学んでいて、方程式を持っているわけではありません。記事で紹介している ICML 2025 の研究では、学習した範囲の内側ではほぼ完全に予測でき、外側では失敗しました。法則を取り出すのではなく、いちばん近い事例をまねていたからです。事例を探す手がかりの優先順位は、色、大きさ、速度、形の順でした。

寄り道の見返りは、遅れて届く

『葬送のフリーレン』のヒンメルの寄り道から、サイモンの満足化、シュワルツらの最大化、マーチの探索と深化をたどります。記事は、評価の期間が四半期や1年なら探索はほぼ必ず負けて見えるが、負けて見えることと価値がないことは別だとして、寄り道が何を残したかを記録しておこう、と提案しています。

ほかに、押して動かせる電子レンジの図や鉄の近代史もあります。教材はすべて全一覧から開けます。

AI開発の最近の動き

プルリクエストの40パーセント以上が、エージェントの下書きから

GitHub の年次報告 Octoverse(10月28日)によると、2026年9月には、プルリクエストの40パーセント以上がエージェントの下書きから始まっていました。3月は17パーセントです。GitHub 自身の数字で、検出できたエージェントだけを数えた下限の値です。2週間以内にマージされた割合は、エージェントが始めたものが90パーセント、比較対象が86パーセント前後ですが、報告は変更の大きさなどの条件を揃えたとは書いていないので、エージェントの方が品質が高いとまでは読めません。

新しいモデルが二つ

物差しが変わると順位も変わります。なお、このラジオの台本は Claude と一緒に作ったので、順位の話は割り引いて読んでください。

Cloudflare の事故報告:失敗が成功の顔で返ってきた

Cloudflare の AI 基盤で、8月27日から9月9日の間に、GLM-5.3 の応答155件に他の利用者のリクエストのデータが混ざりました。約68万トークンを超える、非常に長いプロンプトだけで起きた事象です。Cloudflare は、意図的な悪用の証拠は見つかっていないとしています。

来週の予定

WIPO(世界知的所有権機関)が、11月9日と10日に「IPとAIのグローバルフォーラム」をジュネーブで開きます。オンラインでも参加でき、無料です。テーマには、発明者や著作者の扱い、AIの入力と出力、各国の制度や判例が挙がっています。詳しいプログラムは、11月5日午前の確認ではまだ出ていませんでした。

台本の全文

台本を開く

OP オープニング

こんにちは。木曜お昼の、AI×知財もくもく会です。今日は、2026年11月5日です。

この放送は録音です。こちらから呼びかけられても、お返事はできません。作業をしながら、聞き流してください。途中から入っても、途中で抜けても大丈夫です。

今日の話は三つです。今週の一本。この1か月の棚から三本。そして、AI開発の最近の動きです。

台本は、AIのClaudeと一緒に作りました。もくもく会の記事の話と、外のニュースの話が混ざりますので、確かめきれていないものは、そう言いながら話します。

コーナー1 今週の一本:泡は認められず、レモンは登録された

今週の一本は、「ふたを開けると、レモンが浮き上がる」という頁です。10月30日に、大きな節を追記しました。

きっかけは、10月21日の報道です。アサヒビールの缶入りサワー、「未来のレモンサワー」で、ふたを開けるとレモンの輪切りが浮き上がってくる一連の動きが、動的意匠として登録された、と伝えられました。飲料では国内で初めてだそうです。

動的意匠とは何か。意匠、つまりデザインの権利は、ふつう、止まった形を守ります。けれども、物の形が、その物の働きによって変わることがあります。そのときは、変わる前から後までをまとめて、一つの意匠として出願できます。意匠法の6条4項です。

面白いのは、ここからです。報道によると、同じ会社は2022年にも、「生ジョッキ缶」の、開けると泡が盛り上がる動きで出願しています。こちらは登録されませんでした。頁では、これと同じ出願と判断した事件の判決を読んでいます。知財高裁、令和6年12月19日の判決で、請求は棄却されました。拒絶を維持した審決の判断が、支持されたわけです。

判決の物差しは、大きく二つです。一つ目は、一定の期間、一定の形があって、形を見分ける境界を捉えられること。「定形性」と呼ばれます。二つ目は、形が変わるなら、変わり方に一定の規則があるか、変わる形が定常的であること。しかも、変化の前後の、どの状態でも満たす必要があります。

判決は、動的意匠を入れた1959年の法改正の議論までたどっています。そこに出てくる例が、とても分かりやすいんです。曲げられる針金のおもちゃは、形が不規則に変わって再現性がないので、一定の形がない。一方で、びっくり箱は、縮んだ形から伸び切った形への移り変わりを示せるので、別のものとされました。

では、泡はどうだったか。縁にできる泡の帯は、幅が一定ではありません。増える所もあれば、消える所もある。中央の暗い部分が閉じていく進み方も、場所ごとに違う。商品について公開されている情報でも、泡の形は開けるたびに違っていた。判決は、こう認定して、定形性も規則性もないとした審決を支持しました。

この頁がもくもく会らしいのは、ここで手を動かしているところです。Claude Code と three.js で缶の模型を作り、判決が認定した泡の動きを、そのまま動画にしました。同じ缶を三回開けると、開けて2秒の時点で、暗い部分の割合は40パーセントから55パーセントまでばらつきます。一方、レモンは、何度動かしても、同じ時刻に同じ高さにあります。

ただし、これは説明のために作った模型です。実物を測った数字ではありませんし、そうなるように作った動画は、証拠にはなりません。判決の言葉が、目で見るとどういう違いなのかを確かめる道具です。

もう一つ、大事な留保があります。10月24日の時点で、レモンの動きを示す公報は、J-PlatPat では見つかっていません。ですから、「形の変わらない輪切りが、毎回同じ道筋で昇る。それが定形性と規則性にあたるのでは」というのは、まだ見立てです。登録の理由は、公報が出てから確かめます。

実務の小さなコツも一つ。判決の出願は、物品の名前が「包装用缶」ではなく、「容器入り飲料」でした。公報を探すときは、こちらの名前でも探す必要があります。

コーナー2 この1か月の棚から三本

次は、この1か月の棚です。10月5日から10月27日までに、29本の教材が増えました。11月に入ってからの新着は、このラジオのまとめの頁だけです。今日はその中から三本だけ紹介します。

一本目は、「技術・資本・国家の三つの論理」です。技術の値段はどう決まるのか、という論考です。

印象に残るのは、1923年の富士電機の設立です。資本金1000万円のうち、シーメンス側の出資は300万円、30パーセント。その中身は、機械の現物が100万円、技術報償金が200万円で、現金はゼロでした。記事は、これを、将来のロイヤルティを出資に置き換えたものと解釈できる、としています。

技術を株に換えるには、技術が財産として値付けできる制度が要ります。日本のパリ条約加盟は1899年で、同じ年に、外資との合弁の第1号が出ています。記事の言葉を借りると、知財制度は、技術の論理を金の論理に換える為替レートで、そのレートを国家が設定し、交渉している。そして今は、輸出管理のように、値段をつけても売らせない制度が、技術の格差を固定する主な道具になりつつある。

なお、この記事は、完成した結論というより、仮説を検証するための素材集と位置づけられていて、確認中の項目も明記しています。3分25秒の解説動画も付いています。

二本目は、シリーズ「世界を数式で描く」の3本目、「動画生成AIは物理を理解しているのか」です。

文章から作った動画は、ボールも弾むし、水も流れます。でも、拡散モデルは「ありそうな動画」の分布を学んでいて、方程式を持っているわけではありません。記事で紹介している、ICML 2025 の研究では、物体の移動と衝突の動画を学習させたところ、学習した範囲の内側では、ほぼ完全に予測できました。ところが、外側では失敗します。法則を取り出すのではなく、いちばん近い事例をまねていたからです。事例を探す手がかりの優先順位は、色、大きさ、速度、形の順でした。物理と関係のない、色が一番なんです。

持ち帰る言葉は、「もっともらしい」と「正しい」は別だ、ということです。これは動画に限りません。AIの答えを読むときの、ふだんの注意そのものです。

三本目は、少し雰囲気を変えて、「寄り道の見返りは、遅れて届く」です。『葬送のフリーレン』の勇者ヒンメルは、ゴールに着いているのに、ダンジョンの部屋を全部見て回ります。なぜか。ここから、意思決定の古典を三つたどります。

一つ目は、サイモンの満足化です。人は最適なものではなく、「十分」なものが見つかった時点で探すのをやめる。探す手間まで勘定に入れれば、これは怠けではなく、合理的です。

二つ目は、シュワルツらの最大化です。2006年の研究では、最大化の傾向が強い学生は、初任給が20パーセント高い職を得たのに、満足度は低かった。論文の題は、「より良くやって、より悪く感じる」です。

三つ目は、マーチの探索と深化です。探索の見返りは、不確実で、時間的に遠い。だから組織は、手早く返ってくる深化を磨いていきます。

評価の期間が四半期や1年なら、探索はほぼ必ず負けて見えます。ただ、負けて見えることと、価値がないことは別です。記事は、寄り道を許すなら、寄り道が何を残したかを記録しておこう、と提案しています。

ほかにも、押して動かせる電子レンジの図や、鉄の近代史の頁などがあります。どれも、もくもく会のサイトで読めます。

コーナー3 AI開発の最近の動き

最後に、AI開発の動きです。先週は発表が多かったので、三つに絞ります。

一つ目は、人の仕事の形が変わってきた、という数字です。GitHub が10月28日に出した年次報告、Octoverse によると、2026年9月には、プルリクエストの40パーセント以上が、エージェントの下書きから始まっていました。3月は17パーセントでしたから、半年で倍以上です。件数では、9月だけで1億1000万件。

これは GitHub 自身の数字で、検出できたエージェントだけを数えた、下限の値です。2週間以内にマージされた割合も、エージェントが始めたものは90パーセント、比較対象は86パーセント前後と出ています。ただ、報告はこの差について、変更の大きさなどの条件を揃えたとは書いていないので、エージェントの方が品質が高い、とまでは読めません。私たちが言えるのは、書く量より、読んで判断する量のほうが、これから問題になりそうだ、というところまでです。

二つ目は、新しいモデルです。OpenAI は10月26日に、GPT-6.1 Terra を出しました。画面を見て、アプリをまたいで操作することを前面に出した中位のモデルで、API の価格は、100万トークンあたり、入力1ドル、出力5ドルです。発売時点の性能の数字は、OpenAI 自身が測ったものだと報じられています。

Google は10月28日に、Gemini 4 Carbon を発表しました。まず、限られたサイバーセキュリティの防御担当者に提供し、広い提供はそのあとです。第三者の Artificial Analysis の総合指標では首位ですが、報道によれば、2位の Claude Opus 5.5 との差は1ポイントです。一方、同じ Artificial Analysis のコーディングエージェントの指標では、Carbon は Opus 5.5 に次ぐ2位でした。

なお、この台本を手伝っているのは、その Claude です。順位の話は、割り引いて聞いてください。ここで言いたいのは、どれが一番か、ではありません。物差しが変わると順位も変わる、ということです。自分の仕事で使うなら、自分の仕事で測るのがいちばん確かです。

三つ目は、事故の報告です。これが今日いちばん、開発者の皆さんに聞いてほしい話です。Cloudflare の AI 基盤で、8月27日から9月9日の間に、GLM-5.3 というモデルの応答155件に、他の利用者のリクエストのデータが混ざっていました。約68万トークンを超える、非常に長いプロンプトだけで起きた事象です。Cloudflare は、意図的な悪用の証拠は見つかっていないとしています。

原因は二つの重なりでした。一つは設定です。モデルには約100万トークンの長さを許していたのに、処理用のメモリは約68万トークン分しかなかった。もう一つは、推論エンジンの不具合です。長すぎるプロンプトを「拒否」と印を付けたのに、止めずに、1トークンの詰め物に置き換えて、次の工程に渡していました。次の工程は、前のリクエストのメモリが残ったところで応答を作ります。そして利用者には、エラーではなく、成功が返っていました。

失敗が、成功の顔をして返ってくる。AIに限らず、長く動かす仕組みでいちばん怖いのは、この形です。派手に落ちてくれれば、誰かが気づきます。

知財の話で、来週の予定を一つ。WIPO、世界知的所有権機関が、11月9日と10日に、第1回の「IPとAIのグローバルフォーラム」をジュネーブで開きます。オンラインでも参加でき、無料です。テーマには、発明者や著作者の扱い、AIの入力と出力、各国の制度や判例が挙がっています。詳しいプログラムは、私が確かめた時点では、まだ出ていませんでした。

ED エンディング

今日の話を、三行でまとめます。

泡とレモンの話は、判決の物差しを、模型で動かすと見えるものがある、ということ。

動画生成AIの話は、もっともらしいと正しいは別だ、ということ。

Cloudflare の話は、失敗が成功の顔で返ってくるのがいちばん怖い、ということです。

そこで、今週のお題です。自分の作った仕組みのどこかで、失敗しても「成功」や「0件」と返してしまう場所を、一つ探してみてください。見つけたら、エラーをちゃんと返すように直す。それだけで、今日のもくもくは十分です。

今日の話の要点と出典は、もくもく会サイトのまとめの頁に置いてあります。

見つけたことや、作ったものは、もくもく会サイトの掲示板か、ハッシュタグ、アイピーエフディーイーで教えてください。聞くだけの方も、大歓迎です。

木曜お昼のもくもく会、録音でお届けしました。それでは、手を動かしていきましょう。

出典